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03/10/2012    サイン。  長沢著。
ちょっと前の話になりますけど。

我々4T、記憶が確かならば三回目の「大学」でのライブをしてきました。

千葉工業大学のハワイアンクラブというサークルに御呼ばれして。


いやあ、いいもん見せて頂きました。

ツイッターにて知り合った企画者。うちのコピーバンドをやってるって言うんですよ。

コピーバンド、ですよ!?

コピーなんてね、することはあってもされることなんて想像もしないじゃないですか。

こりゃあ実際に見るしかないだろうということで。

当日を楽しみにしてたんですけど。


蓋を開けてみたら、ライブには出ないっていうんですよ。

我々も含めて学外から招いた4バンドのみのライブで。

聞いたときは非常にガッカリしたんですけども。


でもまあ、あれだよね。安西先生、言ってましたから。

「諦めたらそこで試合終了だよ」って言ってましたから。

ライブ中のMCで無茶ブリしまして、一曲だけ演奏してもらいましたよ。


俺、最前列で見てたんですけどね。

なんつうか、ブワーっときてしまいまして。

何が、かは自分でもよくわかりませんけど。

直樹と一緒に高校の卒業式で初めて人前で披露したハイスタ。

エフェクターの存在すら知らなくてヘッポコな音だったけど、それでも終わった後の凄い「やりきった」感。

あれから十数年経って、自分のバンドのコピーをしている彼等。


たぶん、俺以外で日本に一人いるかいないかじゃないですかね。

自分のバンドの曲でダイブしたのって。


初心に帰る、ともちょっと違うんですけど。

とにかくいい経験をさせてもらいました。




んでね、ライブはじまる前に。

企画者の子が我々のところにうちのアルバムを持ってきて。

「サインしてください」って言うんですよ。

正直ね、今までにも数えるほどではあるけど、したことなくはないんですけど。

もうね、どうしていいかわからないよね。

サインって!!俺がサインって!!ほんと、申し訳ない気持ちでいっぱい。

「お父さんお母さん、ごめんなさい。典明は今、調子にのっています」って、

心の中で謝りながら書きましたからね、サイン。


しかも、ライブ終了後。

うちのTシャツ来た、おそらくそのサークルの女の子なんですけど。

ピッカピカのギターを持ってきまして。

「4T、大好きなんです!これにサイン貰えますか!?」って。

見たらさ、けっこう高いやつなんですよ。しかもおそらく、買ったばかりの。

ダメでしょ。これ、絶対書いちゃダメなやつでしょ。



いつか彼女が結婚して、子供も生まれて幸せな家庭を持って。

子供がね、物置から古びたギターを引っ張り出してくるんですよ。


「お母さん、これなあに?」

「あら、懐かしいわね。これはね、お母さんが昔使っていたのよ。」

「え?じゃあお母さんもみんなの前で歌ったりしてたの~?」

「そうね、これを弾きながら歌ったりもしたわね。あなたが生まれるずっと前の話だけど。」

「え~、ちょっとやってみてよ!!」


弦も錆びきったそのギターを、子供から懐かしそうに受け取る彼女。

よみがえる、大学時代の様々な思い出。

そして、ふと目に入る、ギターの裏面。


きったねえ「長沢」の二文字。



って、アアァーーー!!!

マジすいません!!マジですいません!!

幸せな家庭に土足で踏み込むような真似してマジですいません!!!


だから俺、言ったじゃないすか~!!

「ほんとにこれに書いちゃっていいんですか?」ってあのとき何度も念押したじゃないっすか~!!

ほら、子供ちょっとヒイてるから!!

はやく!はやくしまってくださいよ!!


もうね、書きましたよ。書いちゃいましたよ。

きっちりメンバー四人でそこにサインしてきちゃいましたよ。


マジでね、こんな生活がひと月も続いたら。

絶対調子乗るわ。調子というビッグウェーヴに、ボード片手に突っ込むわ。


俺、絶対ツアーの宿泊先で。

女呼んでドンチャン騒ぎするね。

そんでもって窓からテレビ投げるね。





それでふと。

俺のサインにまつわるエピソードを思い出したんだけど。



俺が中学三年生の頃。

うちの中学に落語家さんを呼んで、落語を聞くっていうイベントがあったんですよ。

まあ、当時落語なんてまったく興味なくて。

興味ないっていうか、むしろ「落語なんておっさんのものでしょ」くらいに思ってたんですけど。


その日は三人の落語家さんがいらっしゃって。

二人は知らない人だったんですけど。

その日のメインにあたる方が桂三木助さん(四代目)という方でして。

落語なんか、って軽く思ってた俺でも知っていた人物。

おお、芸能人だ、なんてちょっとミーハーな気持ちでいたんですけどね。


一人目の方の落語聞いてたときはね、正直ちょっと退屈だったんですよ。

だよね、やっぱ落語ってそんなもんだよね、って。

でね、二人目の方が。

たぶん、中学生相手っつうことでね。考えてきたんでしょうね。

下ネタ連発の話で。これはさすがに俺等にウケまして。

横で渋い顔してた先生を尻目に「なかなかやるなあ」なんて生意気にも思ったんですけど。


でね、ついに真打登場と相成りまして。

素人も素人ですけどね、思ったんですよ。「あの人の後で大丈夫か?」って。

あれだけウケた後、最初の人クラスの落語だったらやっぱり退屈しちゃうぜ?って。

お前はどんだけ偉いんだよって話ですけど、まあそう思ったわけ。


あれだよね。勉強したよね。

「名前が知れてる人は腕がある」ってのを、長沢典明は15歳にして目の当たりにしたよね。


引き込まれるって、ああいうことを言うんだな、と。

話し方もそうだけど、所作のひとつとっても前の二人とはレベルが違って。

たぶん、オーソドックスな演目だったとは思うんですけど。

ただ、面白かった。

なるほど、世間で言う「落語」ってのはこれのことか。

長い歴史を持つにはそれなりに理由があるんだ、と。

落語を「おっさんのもの」とか思ってた自分が恥ずかしくなったよね。



もう、テンションがあがってしまいまして。

俺ね、生徒会副会長だったんですけど。

生徒会ってことはつまり、生徒を代表して落語家さんを招く役割でして。

終わった後に楽屋(つっても体育館の袖の簡素なものでしたけど)に挨拶に行ったんですよ。

とにかく失礼のないよう、感謝の言葉を述べて。

俺等みたいな若造にもきちんと挨拶してくれて、

ああ、やっぱ一流ってこれだぜ!なんてさらにテンションあがったりしまして。


でね、たしか。

先生が生徒会の人間用に色紙を用意しててくれたんですよ。

サインをもらう用のやつ。

で、もともと話してあったのかしらないけど、桂三木助さんに一筆書いて貰いました。


生徒会、五人いたんですけどね。

一人一人違う言葉を書いてくれまして。

川柳、だったんですよ。

俺に書いてくれたのはこんなのでした。



「夏痩せと 答えて後は 涙かな」



もうね、意味はよくわからないけど。

とにかく、さっきあの落語をした人が目の前で書いてくれた事に興奮したまま、帰宅しました。



家に帰って。

さっそく母親に今日の興奮を伝えて。

貰った色紙も見せたんですけど。

さすが、年取ってるだけありますよね。

母親が、色紙の川柳の意味を教えてくれました。


「これはね、『失恋して食事も喉を通らなくなって痩せたのを指摘されて、夏痩せ、ってごまかした』って意味よ」って。


なるほど。

だから最後に涙してるのか。

すげえな、この短い文章の中に、そんな意味が込められてたんだな。




って、


渋いよッ!!

渋すぎるよッ!!


俺、中三ッ!!

ゴミ箱はティッシュでいっぱいです、でお馴染みの中三ッ!!

失恋くらいじゃ飯は余裕で喉を通る育ち盛りですってッ!!



個別に書いてくれたし、もしかしたらなにか意味はあったのかもしれませんけど。

桂三木助さんが亡くなって十年近く経つ今、真相はわからないままですね。





あと、サインでもう一個。


この間、DJ用にレコード棚漁ってたんですけど。

12インチの間から色紙が出てきました。



「典明君へ#イジリー岡田」



帰るまで遠足なのと同じように、サインは飾るまでがサインです。
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